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中国における原子力利用の動向~活発化する多目的利用~

2024年2月7日

●温室効果ガス排出削減に向けて、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)やわが国の原子力委員会等において、発電以外の目的での原子力利用に注目が集まる。
●中国では、さまざまな用途に利用できる高温ガス炉の商業運転が開始されたほか、冬季の暖房、石油化学産業への蒸気の供給、放射性同位体の製造等、原子力の多目的利用が活発化している。
●わが国でも気候変動や環境問題といった長期的な課題に原子力を活用していくためには、一定レベルで国の政策に基づくバックアップが必要と考えられる。

はじめに
   現在、温室効果ガス排出削減の重要な手段の一つとして、原子力発電を推進する取り組みが国際的に進められているが、発電以外の目的での原子力利用にも注目が集まっている。2023年12月、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)において国際原子力機関(IAEA)が公表したステートメントは、「(原子力は)地域暖房、(海水の)淡水化、産業プロセスや水素製造で脱炭素化を支援できる」ことに言及している。
   そのような中で、多くの国で発電利用されている軽水炉と比べて高い温度を得られる高温ガス炉を、発電のみならず水素製造等で活用することが国際的に検討されており、わが国では、日本原子力研究開発機構(JAEA)において高温工学試験研究炉(HTTR)と呼ばれるガス炉を運転しているほか、英国やポーランドと開発協力を進めているところである。
   本稿では、原子力の多目的利用に積極的な中国の最近の動きを整理する。まず原子力の多目的利用に向けた政策について、「第14次五カ年計画」を中心にまとめる。続いて、高温ガス炉を含む小型モジュール炉(SMR)の開発、発電炉の余剰の熱を利用した暖房や発電炉における放射性同位体の製造などの取り組みについて整理する。最後に、中国の取り組みにおける特徴や、わが国に参考になる点について考察する。

原子力の多目的利用に向けた政策
   社会主義国である中国では、5年ごとに経済や社会のさまざまな政策分野で五カ年計画を策定しており、2021年から2025年を対象期間とした第14次五カ年計画では、非化石エネルギー拡大の一環として、沿海部における原子力発電所の建設を安全かつ着実に進める方針のもと、具体的な取り組みとして、既設炉による熱供給、海水の淡水化、水素製造、多目的小型炉の開発による熱供給等が挙げられている。
   また、2021年10月にわが国の内閣にあたる国務院が策定した「2030年前のカーボンピークアウト実現に向けた行動計画」でも、クリーンな低炭素エネルギーの実現の一環として、原子力発電所の建設を安全かつ着実に進める方針や、原子力発電の総合利用実証プロジェクトの展開が挙げられている。
   このように、中国ではさまざまな国家計画で原子力の多目的利用が規定されており、それを受けて各地で実証プロジェクトなどが進められている。図 1は、本稿で取り上げる原子力発電所の所在地を示したものである。

図 1 本稿で取り上げる原子力発電所の所在地
出所:Map by FreeVectorMaps.com", https://freevectormaps.com
省、都市、発電所の所在地等はエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社にて記載

中国におけるSMRの開発・実用化の動向
   現在、中国やその他の国々で開発や実用化が進められているSMRは、発電のみならず、送電網が整備されていない遠隔地へのエネルギーの供給や水素製造といったさまざまな用途での活用が見込まれている。以下に中国で建設や運転が進められている二つの事例について整理する。
<①山東省・石島湾原子力発電所>
   熱出力500MW、電気出力211MWの高温ガス炉実証炉・HTR-PMが1基運転しており、また米国・ウェスティングハウス(WH)社の開発によるAP1000の技術を継承して中国が開発し出力を向上させた2基のCAP1400の建設が進められている。HTR-PMの開発・建設プロジェクトは2006年に「国家科学技術主要プロジェクト」の一つに選定され、国の支援も受けて建設が進められた後、2021年12月に発電が開始され、2023年12月には商業運転が開始されている。
   HTR-PMは現在、発電のみを目的として運転されているが、開発を進めてきた清華大学は、高温ガス炉は通常の原子炉より高い温度が得られるため、石油精製、化学工業、重質油の採掘や水素製造に利用できるとしている。
<②海南省・昌江原子力発電所>
   現在中国製のCNP-600が2基運転中であり、また中国製の大型炉である華龍1号2基が建設中である。それに加えて、玲龍1号と命名された、熱出力385MW、電気出力125MWのSMRの建設が2021年7月から進められている。
   玲龍1号の環境影響評価書において、SMRの活用方法として、分散型電源における電源としての利用、暖房や工業のための熱供給、海水の淡水化、石油化学・製薬等の産業における熱源としての利用が挙げられている。
   現在、玲龍1号の発電以外の用途は特定されていないが、海南省は島々で構成され、香港よりさらに南に位置しているため、暖房よりも海水の淡水化での活用などが考えられる。

原子力による熱や蒸気の供給の状況
   原子力を利用した熱供給は、世界初の商業用原子力発電所である英国・コールダーホール原子力発電所ですでに実施されており、スウェーデン等の国々でも供給実績がある。熱供給は原子炉で発生した余剰の熱を用いて行われるため、原子力発電所の発電出力は低下せず、原子力エネルギーをより効率的に利用できる。
   中国の建物や住居では集中暖房が一般的だが、そのうち石炭を熱源とする割合は、中国で集中暖房が実施されている面積全体の83%を占めており、冬季には微小粒子状物質(PM2.5)等による大気汚染の深刻化が問題となっていた。こうした状況を受け、2017年12月に政府は「北方地区冬季クリーン暖房計画(2017-2021年)」を策定し、天然ガスや電気、地熱、バイオマス、太陽エネルギー等と並んで、原子力を石炭の代替エネルギー源とする方針を示している。
   こうした政府の方針のもと、中国では原子力発電を利用した熱や蒸気の供給が実施・計画されている。以下にその事例を整理する。
<③山東省・海陽原子力発電所>
   現在、AP1000が2基運転しているほか、AP1000の技術を継承して中国が開発した2基のCAP1000の建設が進められている。
   以下に、海陽原子力発電所における熱供給プロジェクトに関連する動きを整理する。


<④江蘇省・田湾原子力発電所>
   田湾原子力発電所では現在、ロシア製のVVER V-428が4基、中国製のCNP-1000が2基運転しているほか、2基のロシア製VVER-1200/V491の建設が進められている。
   海陽原子力発電所は、暖房のための熱供給の事例であるが、田湾原子力発電所では石油化学産業基地に蒸気を供給するプロジェクトが進められているほか、海水の淡水化も実施される予定である。
   以下に、田湾原子力発電所における熱供給プロジェクトに関連する動きを整理する。


<熱供給を専門とした炉の開発状況>
   以上の2件の事例は、発電用原子炉の余剰の熱を活用する事例であったが、中国核工業集団公司(CNNC)グループにより熱供給専用の原子炉の開発も進められている。
   以下に、熱供給専用の原子炉の開発に関連する動きを整理する。


放射性同位体の製造
   中国の科学技術部(「部」は日本の「省」に相当)等の機関は、2021年5月に「医療用同位元素中長期発展計画(2021-2035年)」を策定した。同計画によると、中国では現在、研究炉や加速器等で医療用放射性同位体が製造されているが、主要な医療用放射性同位体の多くは輸入に頼っており、計画では製造能力の強化による安定した供給体制の構築が目標とされている。
   こうした中、秦山第三原子力発電所では中国で唯一、商用発電炉を利用した放射性同位体の製造が行われている。秦山では第一、第二、第三の3カ所の原子力発電所で、合計7基のプラントが運転されているが、秦山第三原子力発電所の2基のプラントは中国で唯一の重水炉であり、原子炉の運転を継続しながら放射性同位体も製造できる。具体的には、医療や工業での利用のためにコバルト60や炭素14等の放射性同位体が製造されている。

まとめ
   以上、中国におけるSMRの開発と実用化、熱・蒸気の供給、放射性同位体の製造の事例を取り上げた。政府が明確に中・長期的な方針を示すことで、事業者にとっては事業の予見性が高まり、投資に踏み切りやすくなる。その結果、政府としても方針を迅速に具体化できるため、冬季における大気汚染や放射性同位体の輸入依存といった課題解決に向けて、政府と事業者が一丸となって迅速な対策が進めることができる。また、中国の原子力事業者は国有企業であることも、こうした官民一体となった課題への対応を可能にしている一因といえる。
   わが国は、政治体制や企業形態が中国とは異なるものの、気候変動等の課題解決に向けて原子力を継続的に活用するためには、国の政策に基づくバックアップが必要と考えられる。

[1]中国の地方行政単位の最上位には省があり(ただし北京市、上海市、天津市、重慶市は省と同格)、典型的にはその下に地級市、その下に県級市、さらにその下に郷・鎮がある。ここで取り上げた山東省の市のうち、青島市は地級市より上位の副省級市であり、煙台市と威海市は地級市、海陽市と乳山市は県級市である。

【参考文献】
●国際原子力機関(IAEA)、“IAEA Statement on Nuclear Power at COP28”(2023年12月1日)
https://www.iaea.org/newscenter/statements/iaea-statement-on-nuclear-power-at-cop28
●世界原子力協会、”China's demonstration HTR-PM enters commercial operation”(2023年12月6日)
https://www.world-nuclear-news.org/Articles/Chinese-HTR-PM-Demo-begins-commercial-operation
●原子力委員会、「原子力利用に関する基本的考え方」(2023年2月20日)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/kettei/kettei230220.pdf
●「中華人民共和国国民経済と社会発展第14次五カ年計画と2035年遠景目標綱要」(2021年3月)
https://www.gov.cn/xinwen/2021-03/13/content_5592681.htm
●国務院、「2030年より前のカーボンピークアウト行動計画」(2021年10月24日)
https://www.gov.cn/zhengce/content/2021-10/26/content_5644984.htm
●IAEA、“Guidance on Nuclear Energy Cogeneration”(2019年9月)
https://www-pub.iaea.org/MTCD/Publications/PDF/P1862_web.pdf
●国家発展改革委員会等、「北方地区冬季クリーン暖房計画(2017-2021年)」(2017年12月)
https://www.gov.cn/xinwen/2017-12/20/5248855/files/7ed7d7cda8984ae39a4e9620a4660c7f.pdf
●科学技術部等、「医療用同位元素中長期発展計画(2021-2035年)」(2021年5月)
https://www.caea.gov.cn/n6760339/n6760347/c6825911/content.html
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