海外電力関連 トピックス情報

【米国】米国における小型炉・先進炉の開発動向

2024年3月29日

● 米国での小型モジュール炉(SMR)開発の動向として、建設が中止されるプロジェクトがある一方で、建設許可が発給されるなど着実に前進するプロジェクトも見られる。
● 米国では、長期的予見性の確保が難しい原子力分野は官民共同アプローチの必要性が指摘されており、他の国々も自国の状況に合わせた対応策を検討していくべき。

はじめに
   2023年12月、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)に際して、わが国を含む有志22カ国が2050年までに世界の原子力発電設備容量を約3倍とする目標を宣言し、カーボンニュートラルの実現に向けた原子力の役割が改めて認識されている。
   そのような中、米国におけるSMR建設プロジェクトについては、建設コストの上昇によりプロジェクトを中止したニュースケール社の事例が注目を集めたが、着実に前進している事例があるのも事実である。
   そこで、本稿では、米国の主要なSMRベンダーの動向についてまとめる。

米国におけるSMRの開発・建設の動き
<ニュースケール社>
   ニュースケール社は、米国西部の7州で発送電事業を行っているユタ州公営電力システムズ(UAMPS)と協力して、エネルギー省(DOE)のアイダホ国立研究所サイトに同社のSMRを建設するプロジェクトを進めてきた。本プロジェクトに対して、DOEは建設用地の提供のほか、SMRの研究開発などで支援を行ってきた。
   2020年12月、UAMPSとニュースケール社は、プロジェクト継続の目安となる発電コストを55ドル(のちに58ドル)/千kWhとすることや、ニュースケール社が本プロジェクトの発電電力の購入者を獲得するために努力することなどで合意した。その後、SMRの建設コスト上昇を受け、2023年3月には、発電コストが58ドル/千kWhから89ドル/千kWhに上昇することを認めつつ、発電電力の購入者を増加させることで合意した。しかしながら、同年11月には、インフレを主要因としたコスト見積もりの上昇により、発電電力を購入する顧客を十分に確保できなかったことを理由としてプロジェクトの中止に合意した。
   本プロジェクト中止の公表後に、米国連邦議会上院のエネルギー・天然資源委員会で「先進的原子炉の商用化に関連する機会と課題の検討」と題した公聴会が開催され、議員や証人は以下のような点を指摘している。
● 新しい設計で初めて建設されるプラントでの工期遅延やコスト上振れのリスクを連邦政府と電気事業者の間で分散させるプログラムが必要(元NRC委員)
● 新設プロジェクトには、官民パートナーシップが必要(上院エネルギー・天然資源委員長)

<Xエナジー社>
   Xエナジー社は、高温ガス炉のSMRであるXe-100の開発・実用化を進めており、実用化において化学メーカー大手のダウ社と協力している。ダウ社は2050年カーボンニュートラル実現を目標として掲げており、発電と蒸気製造のためにXe-100を活用する計画が進められている。2023年3月、両社は共同開発合意を締結し、5月には建設地としてダウ社のテキサス州シードリフト・サイトが選定された。ダウ社はシードリフト・サイトを選んだ理由として、耐用年数が近づいている既存の蒸気製造設備の低炭素技術による置き換えや、サウステキサスプロジェクト原子力発電所から約80kmの距離にあり、原子力発電に対する地域の理解があることを挙げている。なおDOEは、「先進炉実証プロジェクト」等を通じて両社を支援している。
   シードリフト・サイトでは、8万kWeのXe-100を4基建設して、同サイトで必要になる電力と蒸気のすべてを賄う計画である。ダウ社とXエナジー社は原子力規制委員会(NRC)に対して、共同で建設許可申請を提出する意向を通知している。ダウ社はXエナジー社に出資する意向であり、シードリフト・サイトのプロジェクトから得られた技術および知識を共同でライセンス化し活用するための枠組みを開発することで合意している。

<ケイロス社>
   ケイロス社は、「ケイロスパワーフッ化物溶融冷却高温炉」(KP-FHR)の技術開発を進めている。2023年12月にはNRCから、テネシー州オークリッジにおけるKP-FHRの実証炉建設の許可を取得した。発電を行わない実証炉で、水以外を冷却材とする原子炉の建設許可が米国で発給されたのは50年以上ぶりのことである。ケイロス社は、DOEの支援を受けながら、まずは発電を行わない実証炉で技術を実証するため、現時点でKP-FHRによる発電電力の販売先は決定していないが、実証炉に隣接して発電し電力の販売を行うプラントの建設計画も進めている。

<オクロ社>
   オクロ社は、対話型AI「Chat GPT」を開発した米オープンAIのサム・アルトマンCEOが会長を務めており、「オーロラ」と命名されたSMRの開発を進めている。オーロラは、高純度低濃縮ウラン(HALEU)または使用済原子燃料の再処理により製造された燃料を用いる。オクロ社は、データセンターや国防施設といった電力系統に接続されていない施設を顧客とし、長期契約で電力を販売するビジネスモデルを構想している。同社は2023年8月に、ウラン濃縮やHALEUの製造を行っているセントラスエナジー社と、協力に向けた覚書を締結した。セントラスエナジー社は、オハイオ州パイクトンで建設を計画しているHALEU製造施設で使用する電力をオクロ社の発電所から購入し、オクロ社はセントラスエナジー社が製造したHALEUを購入する計画である。


表 1 米国の主要SMRプラントベンダーの2023年における動き

出所:各社のプレスリリースなどに基づきエム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社にて作成

まとめ
   冒頭で言及したCOP28における宣言に象徴されるように、カーボンニュートラルという長期的な目標の実現に向けて、原子力の有効性に関する認識は共有されつつあるが、ニュースケール社の事例のように、SMR建設における工期遅延やコスト超過のリスクも顕在化しつつある。しかしながら、電力や蒸気製造という産業需要を捉えたXエナジー社や、まずは発電を行わない実証炉での技術実証に取り組むケイロス社、パートナー企業と相互に製品の供給者と顧客の関係を築くオクロ社など、着実に進展しているプロジェクトもある。
   すでにSMRを実用化している中国やロシアでは、原子力発電事業は国営事業であり、原子力利用について国が明確な方針を掲げているため事業における予見性が高く、事業者は積極的に先進的な技術開発に取り組むことが可能になっており、それがスムーズな実用化につながっている。
   政治・経済体制が異なる中露とわが国を単純に比較することはできないが、わが国で先進炉の開発・建設計画を具体化する場合でも、政府支援や国による方針の明確化などを検討していくべきだろう。

【参考文献】
● Xエナジー社、”Advanced Nuclear Project in Seadrift, Texas”(2024年3月15日閲覧)
https://x-energy.com/seadrift
● オクロ社、”Oklo and Centrus Energy Sign Memorandum of Understanding for Fuel, Components, and Power Procurement to Support the Deployment of Advanced Fission Technologies in Southern Ohio”(2023年8月28日)
https://oklo.com/newsroom/news-details/2023/Oklo-and-Centrus-Energy-Sign-Memorandum-of-Understanding-for-Fuel-Components-and-Power-Procurement-to-Support-the-Deployment-of-Advanced-Fission-Technologies-in-Southern-Ohio/default.aspx
● ケイロス社、”NUCLEAR REGULATORY COMMISSION APPROVES CONSTRUCTION PERMIT FOR HERMES DEMONSTRATION REACTOR”(2023年12月12日)
https://kairospower.com/external_updates/nuclear-regulatory-commission-approves-construction-permit-for-hermes-demonstration-reactor/
● ニュースケール社、“Utah Associated Municipal Power Systems (UAMPS) and NuScale Power Agree to Terminate the Carbon Free Power Project (CFPP)”(2023年11月8日)
https://www.nuscalepower.com/en/news/press-releases/2023/uamps-and-nuscale-power-agree-to-terminate-the-carbon-free-power-project
● 米国連邦議会上院エネルギー・天然資源委員会、“Full Committee Hearing to Examine Opportunities and Challenges Associated with Advanced Nuclear Reactor Commercialization”(2023年11月30日)
https://www.energy.senate.gov/hearings/2023/11/full-committee-hearing-to-examine-opportunities-and-challenges-associated-with-advanced-nuclear-reactor-commercialization
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